バカンス/hon
 
面に自由落下する
老いた僧が扉の鍵をかけて出ていく
代わって扉の空洞が僕を抱きしめる
空洞はそこから別の風景になる
天蓋には星が連なって燃えており
粛々と葬列のように近づいてくる
女が黒い馬に跨って杯を傾けると
星たちは入りまじって背中を焦がす
僕はそれを全裸で見ていた



3. 使者

だれもいない海岸
空洞に僕は取り込まれてしまった
女が歩けば僕も歩き
女が見たものを僕も見る
今は眠りこんだ老婆である女の顔の
迷宮のような深い皺の一本を
蟻が一ぴき彷徨っていた
蟻はサハラ砂漠からの使者だった
女はメデューサでありセイレンであった
船乗りがこの島に入ることはない
女が手を振ると近づく船は沈んでしまう
こうして星霜がながれていった
黒髪をなびかせて浜べりを駆けていく
ある日我々は美しい少女に成長している
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