ひとつ ゆれる/木立 悟
木々のはざまに見える鉄から
遠のくことのない冬の星から
ひとりはひとりを指さしながら
凍るように降りてくる
潮騒に似た
生きものの音があり
坂の途中にかがやき
のぼることのないかたちをしている
水がたわみ
土の下を動き
たたずむものの足をわずかに持ち上げ
ゆうるりと坂を下りてゆく
滴を背負う羽があり
はばたきを耐えて歩いている
波の音が砂を揺らし
滴のなかの雪を揺らす
行き着く先は常になく
崖の手前で引き返す
無数の道は無の道に近く
横切る音にさらされている
海を越えようとする羽が
滴を手のひらにあずけては去る
ふせてはあふれる片目の前で
野は吹雪と戯れている
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