夢(サダム・フセインの)/たもつ
 
何だ
俺は押し寄せてくる正義の波に溺れている
もしかしたら俺の正義のためにどこかで誰かが死んでいるかもしれない
そんなのはつまらない感傷だ、とおまえは笑うだろう
フセイン、今日の俺は弱い

フセイン、おまえが俺のことをしらないのと同じように
俺は採集した昆虫のことを図鑑で調べる程度にしかおまえのことを知らない
もし俺たちが死んだら
神様を信じているおまえと神様を信じていない俺は別のところに行くのだろうか
違う正義をもつ俺たちはわかりあえないのだろうか
サダム・フセイン、もし電車の席に座っているおまえの目の前にお年寄りが立ったら
おまえは席を譲るか?
雨に濡れている人がいたら傘を差し出すか?
おまえと俺の正義は本当に違うものなのか
そんな簡単なことをおまえに聞きたい
今日の俺はとても弱い
そう言っている間にも、おまえも俺も知らない誰かが血を流し
俺たちは正義の名のもと、無邪気に許しを乞うている


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