噛めば噛むほど味の出る歯/はじめ
 
 最愛なる彼を亡くした彼女はその悲しみを詩で表した
 彼女は詩人だった
 絶望感や悲哀感を彼へのストレートな想いで綴った
 彼女の詩を読んだ人々は皆涙した
 反響が大きくなるにつれ彼女の人気は上がったが気持ちは塞がるばかりだった
 彼女はひたすら書き続けた
 書けば書くほど彼への想いが湧き上がるのを必死に押さえながら
 その果てに 彼女は彼の姿を見た
 誠実で明朗 端正な顔に長身な姿は彼そのものだった
 彼女は両手を広げて感泣した
 二人は抱きしめ合い 久々の再会に身を浸らせていた
 「あなたにまた出会えるなんて…私夢でも見ているのかしら…」
 「夢じゃないさ。ほら、体だっ
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