たとえば歌をうたうように/ベンジャミン
 

ああ 今日は
なんて美しい音色だ
風はすこしばかり強すぎるけれど
これは春なのだから仕方ない
それよりそこかしこで
草も木もみんな楽器みたいに
お互いをこすりあわせている

風が吹けば風の音になり
陽をあびれば呼吸が聞こえてくる
息継ぎをなんども繰り返しながら
みんな一心に楽器を奏でている

僕はそれを聞きながら
たとえば歌をうたうように
ペンをすらりと動かして
言葉をこの真っ白なノートに踊らせる
僕もまた一つの楽器になっている

風が吹けば風の笛を
陽をあびれば深呼吸を
どこまでも深い胸の底から
今までにない言葉を吹いている

たとえば歌をうた
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