桃と月/シリ・カゲル
きそば
フカヒレご飯
それらを全部
ひとりで食べるつもりなのだろうか?
僕は携帯むこうの友に答える
うん、でも、あいつ、とても
いい顔だったよ
頭上には青い月
店内のメタボリックな男は
オーダーがすべて揃ったのを確認すると
それらを一品ずつ、丁寧に、たいらげていった
それはもう
芸術的といってもいいほどの
食べっぷりで
見ているこっちの胃袋の中までが
きゅうきゅうに
うずたかく積み上げられていくようだった
そんなに気にするなよ
お前の気持ちもわからないわけじゃ
ないよ
うん、それじゃあ
またゆっくり
酒でも酌み交わしながら、あいつの
思い出話でもしよう
僕は携帯の終話ボタンを押すと
黒のネクタイをゆるめて
ワイシャツの、一番上のボタンを外し
空を見上げた
月は当然のような顔をして
まだそこにいて
青い光で地上を濡らしていた。
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