仕事の話/吉田ぐんじょう
 


好きと嫌いが
ギアの上で揺れていました
わたしはちょっと迷いましたが
結局どちらとも決められないまま
右手で好きも嫌いも
すっかり覆い隠して
細心の注意を払い
前の白い車を追い越しました

上司から電話が架かってきています
わたしはそれを無視しました
携帯電話が静止するさまは
まるで心臓が止まるようです

誰が泣いているのかと思ったら
雨が降ってきたのでした


道行く人は幸せそうです
ぼろのスーツを着たわたしは
まるで乞食かさなぎのようです
右胸だけが不自然に膨らんでいるのは
大量の名刺が入っているた
[次のページ]
戻る   Point(25)