刹那/深散
 
もっと北の国では、雪が降るという。
ここでは雪は降らない。
でも、風が吹く。
そして、空が澄み、
星が降る。

極寒の異国で見た雪は、
見事な華の形をしていた
じっと見つめなくとも
黒い私のコートの上に
ぱらぱら
それは細工物のように
あっけなく
あどけなく
降りてきた。

一瞬、を生きている。
過去、や未来、なんて所詮幻想に過ぎない。
過去を巻き戻す濡れた頬の皮膚をかきむしって
そう思う、思おうと
過去は、標本。
それは、決して触れられないもの。
もう私以外のもの。
虫ピンで、刺していく。
そして、もっともっと
私の皮膚が濡れなくなったら
いつか、取り出して、みるんだ
それまで
一瞬、を重ねる。

大きなひとつの幸せ、なんて案外、ない。
小さないくつもの、さりげない幸せを、
毎日、ひとつでも見つけること。
その、一瞬に。

星が降ったら、その輝きに。
家の明かりのように白くてらす月に。

光る、今、一瞬に。

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