春の迎え方/松本 卓也
 
三月の風が二月より冷たい
冬がもう少し生き延びているのかな
昨朝国見峠では雪が降っていたそうだ
できればその景色を見てみたかった

いずれ今年に春が訪れる
冬らしい冬を過ごさなくなって
春を迎える方法を忘れたのに

時だけは容赦なく過ぎ
記憶は確実に薄れ
時折思い出す事もある声に
少しずつノイズが混ざって

ふと気がつけば
違法電波を受信したラジオが
異邦言語を話し始めているように
何を言っているのかさえ分らない

同じように一度放った言葉さえ
冷え込んだ風に流されて
再び戻ってくる頃には
偽りの温もりを纏っていて

あの時何を思っていたか
本当は
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