第ニボタン/Rin K
わからず笑いあいながら
ぼくは目指した
裏門の、さくら
飽きるほどにきいたチャイムの音も
今日ばかりは背中で受けることが
どうしてもできなくて ぼくが
何度も立ち止まっては、振り返るものだから
君はそのたびに小さくつまづいた
それでもふたり、声に出して笑いながら
時計台のかげがうつる校舎の壁に
精一杯のサヨナラを叫んだ、ら
重なり合った針と
昨日までの日々が、揺れて
にじんだ
咲くまでの日数はきっと
四つの手で数えられる
さくらの幹に君の体重をあずけて
ふたたびと帰らない場所で交わす
最初で最後の口づけ
これで もう
午後の陽ざしを吸い込んだ、釦に
託す思いなど、きっと
ないはずなのだけれど
君のこころにこの瞬間が
十秒だけでも留まってくれればいい、と
願ってそっと握らせた、二番目の釦
ニギリシメテ
少しだけ痛い、旅立ちの歌―――
戻る 編 削 Point(31)