第ニボタン/Rin K
やってみたいことはたくさんある けれど、
やっておきたかったことも、たくさんあった
高く、空に流れていった最後の校歌と
旅立ちの、握りしめたら少しだけ痛い
金釦のような歌
それらをいいわけに、せめて
そのひとつだけでも叶えてやろうと
ぼくは教室を飛び出した
右手には卒業証書
左手には、おどろいた君の
細い手首
ひとまわり大きくなった君の瞳は
まだ涙がかわいていなくて
そのぶん昨日より、大人びてみえた
どこまで走るの、と
君のはずんだ声が
歌を追いかけて空に溶ける
ぼくがいきたいところまで
一度くらいは言ってみたかった
ありふれた答えに
わけもわか
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