それからのたわし/
たもつ
たわしはもう
わたしのことなど忘れて
海に帰ってしまった
たわしのかわりに
いわしで風呂の掃除をすると
少し生臭かったけれど
自分も海に帰れたような気がして
そのような気がして
居間には何も飾られてなく
今まで何が飾られていたかなんて
誰も気にしないような
そのような春の風が吹いて
壁に書き残された「さよなら」という
たわしに似た文字を
私は指でなぞっている
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