手暗がりの下、星の肖像/士狼(銀)
 


いいえ、あれは太陽ではなく
古びたシャンデリアの明かり


起立、
今日という善き日から逃げ出して
梟の首を廻す
大海原ではマストが立ち始め
皆が合図を待っている
黒い波がうねり
金の釦がちら、と見える

ひとつには着古した制服と潰れた黒鞄を
ひとつにはよれた教科書と集合写真を入れて
ふたつの引き出しの把手を外した

礼、
把手だけ集めて虚偽に晒す
あぁ、それらは、

思い返すと寂しくなるから
ひっそりと笑うことにする

卒業、
合図は確か、桜の花弁だった
走り出した船に意志を載せ
風に煽られる帆に夢を巻き
互いに
いつか、を、約束する
その曖昧さの中に気恥ずかしさと郷愁を混ぜて

絡めた指先は温く緩み
把手の冷たさに言葉を添える
思い出を留めた金属は、この手の中に


いいえ、あれは太陽ではなく
古びたシャンデリアの明かり
手暗がりの下で光るのは
把手に刻まれた、星の肖像

船は、走り始めたばかり




*把手:とって

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