或る絵描きの悲劇/蔦谷たつや
 
いつかあなたは僕の絵を
「痩せた狐の落とし子ね」
笑って僕に言いました

弱って僕は、虹のあなたに
「よくも、よくも」と笑ってました

いつかあなたは僕の絵を
「止まった時計のようだわ」と
親身に教えてくれました

悩んで僕は、虹のあなたに
「いま動くよ」と笑ってました

いつかあなたは僕の絵を
「地獄絵図の模写かしら」
出任せばかりに言いました

負けずに僕は、虹のあなたに
「これは君の肖像なんだ」

いつかあなたは僕の絵を
「こんなガラクタ誰が買うのか」
怒鳴って部屋を出て行きました

初めて僕は、虹のあなたに
どういうこともできなかったの


あれからとうとうあなたがもう
二度と僕に何一つ
言わずにあの世に逝ったこと

あれからとうとう僕がもう
筆など持たずに何一つ
言わずに涙に死んだこと






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