悲しみよこんにちは/七尾きよし
 
言葉にすることさえ許されないゆるさない
親鳥が産み落とした卵が割れた日に
悲しみはこの世に生まれ出た
にこやかな若者は足近づけて
なぜそんなに悲しむんだよ
なにがそんなに悲しいんだいって問いつめる
そうやって
悲しみは殺されることなく
その存在を亡きものとされつづけてきた
悲しみよこんにちは
小説のタイトルでしかなかった言葉が
今ぼくのこころの中でこんにちは言っている
悲しみよこんにちは
悲しいんだね 悲しいんだよ
誰にもこんにちはされずに彼は泣いて暮らしていたのだ
悲しみよこんにちは
そこにいたんだね



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