傘/Six
気に入りの
花模様の傘の
模様の部分が
随分と手垢で黒ずみ
若くない自分は
その傘を持って
真剣な顔をして
駅へ急ぐ
自慢の大股歩き
いまだに
何処にも到達せずに
いろんな誰かの手を握って放して
いろんなぬくみと体臭の
コレクション多数
「その傘可愛いですね」
「いい年してピンク色よ」
「でも可愛いですよ」
「ほらすごく汚れてるよ」
可愛いのは知ってる
今でも時々言われる
いや、
傘のことじゃなくて
自分のことだけど
傘を持っていない方の手には
脂性の誰かの手
傘とその誰かと
どちらが大事なのと訊かれるけれど
そんなの答えるまでもない
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