漁り火/はじめ
漁り火が漁船の真ん中で燃えている
ほうらもうすぐ魚達が集まってくる頃だ
投網は十分前に投げておいた
暖かい光に師走の魚達は引き寄せられてくることだろう
腕組みをして魚を待っているおじさん達
煙草は船上で吸うのは禁止なのに唇の端に挟んでじっと海底を睨んでいる
僕は見習い
手持ち沙汰な僕は今不安定な気分だ
波の音が耳を澄ますと遠くから聞こえてくる
潮の香りがその匂いで麻痺した頭の中に入ってくる
煙草を船底で踏みつぶして消して「チッ」と舌打ちをするおじさん
煙草の灰がこぼれ落ちた後にそれに気が付いてそわそわしだしたおじさん
皆が漁り火の周りに集まって凍え
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