乾杯!/松本 卓也
そこまで古くもないのに
とても遠い思い出の中でしか
もう息づいて居ないと思っていた
小さな居酒屋の中で
六年ぶりに合わせた顔達は
どれも少しだけ年老いていて
それでも変わらない声をして
調子に乗ってみたり
笑って諌めてみたり
わざとらしくのってみせたり
笑いながら怒っていたり
一瓶の焼酎を空かす間に
どれだけの淀みを吐き出せたか
一箱の煙草を吸い尽くす間に
どれくらいの時を重ねられたか
明日になれば
あの頃とは違う日常
夕方のバイトに間に合いさえすれば
後期の単位を落とさなければ
デートの待ち合わせに遅れなければ
今日中に起きれさえすれば
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