花 妖/水無瀬 咲耶
 
ついばみにゆく

((もう 明日をはらむことができない
  涼やかな闇 さゆらぐ翡翠の梢
  けざやかな季節は 流されてしまう))


ほらごらん 淡いひかりの花ふさから
ぽとりぽとりと 時のしずくがしたたる
ざわめく波紋 もっと心をかき乱してゆけ
ここではないどこかを生きていたいのに
はがゆい川面は すぐ同じ像を結んでしまう
くだけくだかれてゆけ 水鏡
蜜いろの破片よ 浮かび上がれ
緩慢なゼリイ質の日常を泳ぐ反復
息継ぎもうまくない私は 溺れる魚
  
  桜並木には不思議な結界が張られ
  花妖は 心を異界に閉じこむ
  時間を踏み外した私の
  焦点は過去に結ばれ

((気がつくと 空から垣間見たのです)) 
  
 桜並木の川底 青白い男と艶やかな女の魚影
 さよならの時刻を 永遠にさまよっているのです



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