あのひと/草野春心
あのひとは僕の日々だった
飲みかけの牛乳パックなんか見てると
なぜか思い出してしまう
あのひとと話した 他愛のない未来
使い慣れたグラスにミルクを注ぎ 口づける
甘さが 懐かしい痛みに変わり
ようやく僕は気づく
あのときの未来に 誰も立っていない事に
蜜柑の味とか形とか
雨あがりの匂い
どこへ行ってもついてくる ひとりぼっちの音
……なぜだろう いつでも
あのひとを感じさせるものは
あのひとのものじゃない
あのひとは
あのひとの日々を生きていた
戻る 編 削 Point(6)