ニカラグア競争男/カンチェルスキス
10円玉を。それをしなきゃならんよ、
そんなときが来てるんだから。楽勝。
ぶん、と音がして、ターボでもかかったみたいに、おれは人類の進化を
トレースする、ちょっと上体が後ろに反れて、スピードがあがる、
昼食時の吉野家のサラリーマンの箸さばき、かろうじて現実味を帯びて、
これだけっていうことの、チョロQの原理。おれは自転車のおっさんを
抜き去った。
後ろで声が聞こえる。誰のか?はもうよくわからない。大晦日に
慌てて網戸の掃除をしてる主婦みたいな声で、にわかに
湿ってる、ところどころ、黴て。
「なあ、兄ちゃん、どこに行ったんだよ?オレは津だよ。まだ津にいるよ。津津津」
マダガスカルからニカラグアの移動距離は?そんなの知らん。
「言ったろ、ニカラグアさ」
誰に言うでもなく。うわずって。だけど、太腿にはびっしりと剛毛。
おれはただ歩いてる。
ふわふわと、ウミネコが。何かのついでみたいに飛んでる。
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