えむさんの草原/たもつ
 
が高いそうだ
もうお腹の中には二人の赤ちゃんがいる
順番間違っちゃったね
ってからかうとアハハと笑った
セクハラまがいの失礼な言葉だったのに
アハハと笑った
えむさんの笑顔はいつもいい匂いがする

それから一ヵ月たって隣の課にいくと
えむさんの机の周りは小ざっぱりと片付いてて
えむさんは後任の人に引継ぎをしていた
いつものようにその高い背を折りたたんで
もしかしたらえむさんとは
これから一生話をすることもないかもしれない
つまらない感傷かもしれないけど
えむさんも僕もそれぞれに大切なものを知ってる
大切なものに順番なんてないことも

えむさんがひょいと首を伸ばして
窓の外を見た
誰も見たことのない草原が
明日窓の外からなくなる


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