悲しみの調律師/明星 梟
 
風に乗って流れ聞こえるピアノの音

集中力が途切れて
ふらふらピアノの前へ
「お前は俺を惹きつける何かがあるのかい?」
そっとピアニッシシモで呟く

破れたスリッパから
グロテスクな肉片が這い出てきて
じっと俺を見つめていた

俺は乱れたでたらめな旋律で
薄汚れた灰色の大気を振動させる

アレグロでこみ上げる吐き気はきっと
自己嫌悪の象徴なんだろう

スタッカートで繰り広げられる
馬鹿馬鹿しい会話に怯むな
お前にはお前の意味があるだろう?

タイで同じような話を繰り返すよりも
スラーで少しずつ会話を繰り広げて
テヌートとアクセントで己を主張しろよ

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