音、耳澄まし/なかがわひろか
 
鍵盤を踊る細い指
憂鬱音
絶望音
情熱色の希望音
そして、一瞬の隙間に入り込む無音を
あなたは奏でる
その音にわたしは踊り
狂い、そして切なさに悶える
わたしは音に乗るように
必死に声を張り上げる
けれどあなたのつむぎだす音は
捕まえようとするわたしの声を
するりするりとかわしていく
追いすがるわたしの声は
無機質な部屋の壁に吸い込まれる
あなたのピアノが終わる頃
あなたの音に犯されて
呆けた女のようになったわたしは
次の曲までの無音に
耳を澄ませる

(「音、耳澄まし」)
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