桃緑/千月 話子
 

丸い月を鳥籠にして


 春子は晴れた日に 雨の降る
 不思議な時間に散歩する

と 太陽が真正面を照らす頃
いつも 道は右に折れ
いつも 濡れている白猫に
いつも 小声でにゃあと鳴く
白い背に光りは当たり 屈折
今日は全ての色が揃って見えるから
「虹 と呼んでもよろしいかしら?」と
首を傾げて尋ねてみますと
大きな瞳に虹を映し 猫は
跳ねるように寄り添い歩く
 傘の雫を避けてお入り


廃線になる線路に真昼のかげろう
行ったり来たりしている
青い電車 赤い電車
こっち側で 満開に梅は咲き
人々の最後の賑わい
あっち側で 満開の桜は咲き乱れ
声だけが風に乗り
草野原の錆びた線路をゆっくり走る

春子と虹は 弥生
桃緑の電車に乗って
北へ北へと飛んで行く
波のように長い髪を
さらさら揺らして

 

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