割れた眼/松本 卓也
例えば呟きに隠れた本音の意味
交錯する感情が封鎖した未来
虚像の片鱗に狂喜する人々を
醒めた瞳で映す装いの数々
嘆きの言葉を忘れ
ぼやきの向きを履き違え
何処かしら彩られた虚飾に
憐憫を込めて眺め見る
反射する声が右脳で繰り返され
プリズムは網膜を幾度も突き破る
溜息の数だけ積み重なる距離
言霊に隠れた欺瞞が見え隠れする
見え透いた虚構
演出された自己
告白する病状
見せびらかす不幸
流れ落ちた涙を宝石にして
着飾るだけの自称弱者が奏でる
半端に泣ける舞踊曲に狂いながら
浪費されている事情を横目に
ほくそ笑む口の端と
割れた審美眼から滲み出るのは
同情を誘う卑屈この上ない泣き顔
生き様など何処にもなくて
人生を背負う気概でも
軋む歯車の悲鳴でもなく
今も昔も医者に保障付けられた
病名だけが詩人の証
無意識で居られたら
どれだけ幸福であろうか
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