雨になる前に走り出してしまう/
岡部淳太郎
いという事実を、言っ
てみたいだけであって、
そうして、傘がないと、
不幸のふりをしてうた
いながら、天から降っ
てくる雨を、ひたすら
に味わいつくしたい、
それだけのことなのだ。
これから降るであろう 雨を
新たに記憶に加えることにして
はじめての雨の記憶が欠落していることの
代償としたいのだ
それもやがてかすれて
ぼんやりととおくなってしまうかもしれないが
それでもあえて
この心臓の中に雨を降らせて
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