雨になる前に走り出してしまう/岡部淳太郎
雨の記憶を憶えていない
私が はじめて雨に遭遇した時の 記憶
それはかすれて 雨の日の
窓ガラスの向こう側の風景のように
ぼんやりととおくなってしまっている
だが 思い出せば
いつでも雨だった
脳の中に降る 雨
脳の中の 水たまり
それらの洗い流すことの出来ない 記憶
それらを抱えて
曇る窓ガラスの向こうに
いつも私はいた
いつだって
雨の風景は他人の顔をしていた
私は傘を持っていない。
だから私はずぶ濡れ。
頭から爪先まで、見事
に濡れている。晴れの
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