音のない戦場/九谷夏紀
 
数と死の匂いのなかに
立ちすくめるだけ佇んで
屈み込んでしまう少し前にその一角から私は離れた
離れるほどに明るい空間に救われて
身体にあたたかみが戻るようだった
図書館は変わらず静かだ
しかし私の耳に
ヒール音は聞こえない
頭には轟音が鳴り響いて止まない

あれらの写真をもっと見なくてはならない
戦場は人目にさらされなければならない

あれらの写真をもっと見なくてはならない
次に私があの写真を見た時には
もう同じような衝撃は訪れないとしても

あれらの写真をもっと見なくてはならない
写真の戦場より今の日常がまさってしまうのだとしても
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