音のない戦場/九谷夏紀
棚の間からゆっくり抜け出すと
そこは少し明るく広い場所で
やや低い棚に大型本が収められ
戦記ではあるが他の要素が加わった書物が並んでいた
幾分軽くなった気分で私はこの写真集を手に取った
手軽さとわかりやすさがもたらす単純な揺さぶりは
何より強い力を持つのかもしれない
そこは図書館ではなくなった
写真1.
ただ目を閉じて横たわっているだけのような日本人歩兵隊員の顔は
知人が見れば名前もわかるくらいはっきりと写り
この閲覧室に調べものをしに来た学生として
私とすれ違ってもおかしくない素朴な顔立ちの若者ばかりだった
彼らは死人となり
弛緩しきった
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