ゆうべ まじない/木立 悟
棄てられた径
放縦の跡
少し斜めの不確かなもの
遠い遠いふるえから
そのままではないそのままに
こぼれながら手わたされるもの
灰が
ひとつのざわめきにつながり
降りつづくものを降り終わらせ
指のはざまは切なくなる
よせるよる
よせるよる
明るさを轢くいとま無く
車輪は鉄の柱をすぎる
音を負う背
音を負う背
罠のように
おだやかな辻
曇とは逆に
日々は飛び去る
人影ばかりで
人のいない路地
紙を小さくちぎるたび
紙の上の風もちぎれる
暗い道には
理由がある
暗い道には
やわらかな壁
ひかりしずませ
ひかりしずませ
ひと息からひと息へ
めぐり絶えないうたがあり
丘や崖から落ちるうたもある
見えないしるしが見えてくるころ
谷間の原には緑の火
遠いふるえを導く火
何も書かれていない紙に
傾く陽をあて現われる文字
苦いつとめも苦い涙も
蒼のなかに眠らせて
小さな声で詠まれた紙は
さらに小さくちぎられてゆく
戻る 編 削 Point(4)