山間の月/まれ
 
(「影の無いおとことオシの娘が山あいの廃屋に住んでいる。」と伝え聞いた。)

 おとこは、月を空から引き剥がしたいと思った。
大事なひとが喪われた今、なぜコウコウと輝くのか?と、
うらみがましく眺めては、
むしろを編む手を止めた。
あすにはもう。そのむくろを埋めなければ、いけない。
そうなればもう、会えないのだと考えている。再び。
黒く焼け焦げた刃が刺さるようだ。
そんな気がした。

 朝は刺すような冷気のもとに開けた。
おとこは庭に出て穴を掘った。
しかし棺には何も入れず、穴もまた埋めなかった。
その夜は満月だった。
からっぽの棺の底には鏡がはめ込まれていた。樽のよ
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