灰緑の部屋で 私たちは/塔野夏子
灰緑の部屋で 私たちは
話をしている
天井や壁に貼りつけた
太陽や月や星たちを
そろそろ違う場所に
貼りかえようか と
私たちは長らく
この部屋に棲んでいる
いや あるいは
この部屋の中を
ずっと旅しているのかもしれない
私たちはこの部屋の床に
きちんと足をつけているかもしれず
この部屋の宙を漂っているかもしれない
いずれにせよ たしかなことは
私たちが長らく
この部屋に存在していること
そして私たちは
話をしている
花瓶の花は
そろそろ替えどきではないか と
時計の螺子は
そろそろ巻きどきではないか と
けれど私たちは
何も知らない
なぜ私たちは長らく
この灰緑の部屋に存在しているのか
そしてこの部屋の外には
いったい何があるのか
私たちはさがしているのかもしれない
物語のはじまりを
あるいは終わりを
あるいは 私たちの名前を
あるいは この部屋の扉を
いずれにせよ なぜか聴こえてくるのは
たどたどしくピアノで奏でられる
トロイメライばかりなのだ
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