下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
路面が凍りそうなほど寒い朝
彼は社長を迎えに行った
自宅に着くと
リビングのソファで社長が
頭から血を流して倒れていた
頭の中身は
アンティークの柱時計に飛び散って
ふかふかの絨毯の上には
仲の良かった社長夫人が
胸から血を流し
床には拳銃が一丁
転がっていた
抱きかかえたけれど
もう息もなく
二人の身体は
まだ生温かかった
彼はタクシーの運転手だった
警備員の日焼けのように浅黒く
大柄だった
そして声がでかく
相手が近くにいるのに
遠くにいるみたいに
しゃべったから
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