湾岸経由蜜柑畑行き/岡部淳太郎
泥になって歩く
海の方から風が吹くと
私じしんである 泥
がかわいてしまいそうになる
おまけに潮のにおいまで
はりついてしまいそうになる
この湾岸沿いの道は 淋しさ
そのものが細長く伸びている
見えない背後から
見えない先の方まで
その淋しさがずっとつづいている
初潮を迎えたばかりの女子中学生が
うつむいて
教科書のようなものを見ながら歩き
困ったような顔をした海鳥が
か細い声で
ちるりり ちるりり
何かを呼ぶように鳴いている
私は私の泥を守る
津波にさらわれないように
甘い 若い匂いに洗われてしまわないように
私は私を守る
泥として生きてきて
誰かの
[次のページ]
戻る 編 削 Point(24)