ひとつ 斜めに/木立 悟
 



すぎてゆく
すぎてゆく
小さなものたち
大きく見えても
小さなものたち


右ききの車輪
すべらかに
音もなく溝をはずれる
いくつもの
右ききの車輪


容れもののなかみが
大きく傾いても
食べものは食べもののままでいて
おいしく食べ終えてしまったことが
さみしい


まんべんなく平たく偽りの
明るい言葉たちが近づいて
区分けされた箱を並べて
隙間のない手招きの目で
じっとこちらを見つめている


まばたきより薄いふたつの膜が
漢字の重なりを邪魔している
額から下がり
陽の光に揺れ
音の端を折り曲げる


喉に浮かぶ鈴は鳴らない
飲んでも吐いても動かない
割れた車輪に横たわり
雪をすぎる足音を浴び
目を閉じ かたちを見つめはじめる


箱は溝の上にあり
左腕ではさわれない
見える斜めと異なる斜めが
小さな輪のあつまりに立ち
偽りの言葉をすべらせてゆく














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