或る紙すき職人の遺言/蒸発王
職人なんぞいない
この手ですくんだ
違いも出るし
にじみ方にはクセができる
和紙はあんな薄っぺらいのに
幾層に上重なってるのは
もっと色々な温かみだ
それでねお前
俺が死ぬ前には遺書を書くから
もちろん俺の紙を使って
最期の手紙を書くよ
墨はにじんで
俺の紙にしか出ないにじみ方をするだろう
其れがあればいつも一緒だ
それからねお前
俺が死んだら
骨壷を包むあの白い袋
あれあ和紙で
その和紙をお前がすいておいてくれないか
そうすりゃ独りで逝くんじゃない
其れがあればずぅっと一緒だ
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