或る紙すき職人の遺言/蒸発王
 
職人なんぞいない
この手ですくんだ
違いも出るし
にじみ方にはクセができる

和紙はあんな薄っぺらいのに
幾層に上重なってるのは

もっと色々な温かみだ





それでねお前

俺が死ぬ前には遺書を書くから
もちろん俺の紙を使って
最期の手紙を書くよ
墨はにじんで
俺の紙にしか出ないにじみ方をするだろう
其れがあればいつも一緒だ


それからねお前
俺が死んだら
骨壷を包むあの白い袋
あれあ和紙で
その和紙をお前がすいておいてくれないか
そうすりゃ独りで逝くんじゃない
其れがあればずぅっと一緒だ

[次のページ]
戻る   Point(10)