或る紙すき職人の遺言/蒸発王
 

最近の紙ってのは
紙じゃないね
ケント紙だとかルーズリーフだとか
下らない
にじまない紙の何処が紙だというんだ

紙はね

にじんでこそ紙の価値が問われるのさ
とくに
和紙はね
手すき職人が1枚1枚魂を込めてる
そこに滴る水一滴
墨の一欠けら
時には血でさえも
落ちれば吸い込み
深く深くにじむ
にじめば手すいた人間の魂が
紙の上に見えるものなのさ
俺の手を見ろ ほら
薬品でガサガサだろう
ちり取りって言って和紙を作る時
ゴミが入らないように取り除くときにヤられる
こんながガサガサ1つとったって
同じ職人
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