水泡軌/木立 悟
うなじにもいて
みぞおちにもいる
雨はいろんな速さの生きもの
応える声に重なってゆく
肌をついばみ
葉のようにすぎ
甘く指を噛み
飛びたつしるし
強さでもなく弱さでもなく
ただしなやかに降るものを負い
冬の蜘蛛の巣の音たちは
度しがたい神の無言に揺れる
道に散らばる実の色を
両腕の宙にかきまぜて
光が光に突き刺さるまま
流れる血のまま抱きしめている
牙のかたちを奏でては
咬み砕かれてゆく奏者
滴は滴であるためしなく
冷たさのみの歴史のなかでは
花を抱えて歩むものらに
花の名前を問おうとするとき
花は数歩のうちにも変わり
もどることなく変わりつづける
深まる音をたずさえて
暮れる日 明ける日を見つめている
雨はそこにとどまらぬ生きもの
かがやく小さな目をすぎてゆく
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