渾身オーケストラ/ブルース瀬戸内
そう、バイオリン
君は三角関数を使った見取り図で
明らかになる情熱の核心に向かって
音を奏でればいい。
そう、トランペット
君はハッブル定数を感情に見立てた
弛緩する精神に緊張を持ち込む寸法で
音を奏でればいい。
そう、ピアノ
君は数珠つなぎになった知と情を
酸化させないように疾駆するメロデイラインで
体系自体を揺さぶればいい。
そう、フルート
君はパラメータ管理された文明に無邪気に抗うことで
バランスを創出したうえで
夕焼けの抒情に音を与えてやればいい。
そうだ、総員、それでいい。
そして聴こえるか。
オーケストラが聴こえるか。
これは不協和音ではない。
生きるとはこういうことだし、
こういうことでしかない。
そして私は伝統的に
それでも生きろと言う他ない。
これは私なりの解釈だが
こうも言うことができる。
突っ切れ、果てまで。
せいぜいがこんなところだ。
あとは自分達の出した音を頼ることだ。
私のタクトなぞ小手先にもならん。
鳴らせ、人生を。
鳴らしてしまえ、全部。
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