『台風、ん』/川村 透
 
 空を見上げたら青い渦の底にいる、
 ことに気づいた。目だ。
 背を押されて飛ぶように駆けつづけて来た僕、は
 たたらを踏む
 水色の傘につかまっていた指も楽になって
 水たまりの端を踏むスニーカーずぶ、濡れ
 の足元の鏡に映る空の顔色、
 を背負って立ち止まる。


 いつしか風も弱まり僕の体は雨から自由になっていた。
 僕は「台風」を、生きてきた、
 ことに気づいた。真っ只中なんだ。
 しん、と草むらが陽光に濡れ、揺れ、ひとしきり水滴を散らす
 でも、あの雲の塊はまだ終っていないと
 僕の後ろ頭の、高い木の梢あたりで、もう口笛を吹き始めた。
 僕は「台風」を、駆
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