砂のことば/銀猫
動かない空気のなかで
宛てもなくひらりと
便箋を翻すと
そこには
まだ言葉にならない溜息やのぞみが湧きだして
いつの間にか黒い模様を描きはじめる
遠くへ帰るひとを
いま見送ったばかり
するり、動きだした列車の窓を
無感動に眺めて立ちつくしたばかり
かなしい、と寒い、が
入り交じった風が起きて
わたしは襟を立て
プラットホームの灰色に溶ける
ああ、涙だ
頬を落ちては
まるで海水のように
ひたひたと打ち寄せる
まだ
あなたのために
泣けたのだね
あなたはまだ
わたしの海だったのだね
手向ける言葉は
何が相応しいのだろう
灰色の足もとに砂の感触がする
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