旅人/相良ゆう
られそうかい?」
少しくの沈黙の後 僕は恐る恐る彼に尋ねた
「少し時間は掛かったけど
この道の向こうに あるような気がするんだ」
彼はゆっくりと立ち上がり 笑顔で
「ありがとう」
と僕の頭を撫でて 再び旅立っていった
結局僕は 彼が何を探しているのか わからなかった
4
そして今
僕は苔むしたあの杉の木がある並木道に立っている
山奥に消えたあの日の彼に自分を重ねて
あの時 彼が探していた「居場所」
時を重ね 歳を重ねるにつれて
それはいつの間にか 僕の探し物になっていた
彼は居場所を見つけたのだろうか
僕は見つけられるのだろうか
そう思うと 僕はとても彼に会いたくなる
僕は彼の辿ったであろう道を行く
でも彼とは反対の方向を向いて
こうして僕は 旅人になった
戻る 編 削 Point(1)