いのちのかなしみ/小原あき
たっぷりと綺麗なお湯を張り
たぷん、とそこへ身体を潜り込ませた
暖かな気持ち良さが
ほんのり心地よい
綺麗な
本当に綺麗なそのお湯を
手で掬ってみると
遠くの飢えたいのちが
泣いた気がした
明日が来ることを恐がる毎日に
明日が来ないかもしれない毎日が
何かを訴えている
かまわずお湯に浸かり続けると
耳でしか知らない
想像でしか知らない
飢えたいのちが
必死に手を掴む
払い除けても
耳鳴りのように
離れない
何もない日常
飢えもない
楽もない
悲しみもない
喜びもない
何もない日常
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