無為自然、苦しみて、苦しむことなく。/生田 稔
(いま六十三歳の私がタイムトラベルして二十七歳の過去の私と入れ代わってい
るのである。つまり私は現在の中に過去を描出しているのである)
長年の田舎暮らし、背広はなく、ブレーザーが一着、あとは防寒衣とかジャンパー
などだった。何かカバンをということで、昔から持っている革のバッグを一つ持って、
待っていた。
田舎といっても列車が来るぐらいだから、数百軒の家はある、町の皆は山のお寺や、川向こうの神社などに関わっていて、キリスト教をどうこの町に居着かせるかは難しいことである。家の前で約束の九時に立つていたら、数分遅れて、横丁から水島さんがやはりカバンを持って現れた。今日も緑のツウピース
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