無為自然、苦しみて、苦しむことなく。/生田 稔
 
「無為自然、苦しみて、苦しむこともなく」

 見渡すかぎりの畠また畠
単線の列車がこの田園の町にも、日に二回やってくる
沢山のトンネルをくぐって、昔は蒸気機関で
トンネルに近かずくとボーボーと
二回汽笛でおしえる
今日は見知らぬレデイが一人
朝方の列車でやってきた
中年を越して初老ぎみの女だが
さわやかな趣味のいい緑中心の服を着てる。

「あの方女優さんなのよ」
近頃は映画を観ないから忘れちゃったが、
「ありや、水島陽子て女優じゃないか」
彼女のことは、さっぱりわかっていないが、
どういう事情かわからないが、半裸にもならない堅物だとは
知っている、こんなところに何
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