一人で眠る/かのこ
冷たくて無愛想なホテルのバック通路にまで
複雑に入り組んで伸びてきた
甘い生クリームのケーキ
黒いのはダークチェリーで
緑色のはマスカット
桃と、アプリコットと苺と梨とフランボワーズ、ラズベリー
「どうぞお好きなだけお召し上がり下さい」と
お揃いの仮面をつけて女の人が言った
仕事も恋愛もうまくいかなくて
でも先が不安だから途中で辞めるわけにもいかない
辞めたって解決にはならないから
周りの人はみんな毎日朝から晩まで働いていて
弱音を吐いても自分が悲しくなるだけだから
毎晩毎晩淋しくて一人で泣いている女なんだ、たぶん
銀色の何の変哲もないフォークで
いびつなケーキの
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