手を握りあう/及川三貴
 
山から駆け下る
細い川沿いに
置き忘れた人形が
初めての記憶
あまりに強い夕暮れが
記憶の中を暗い黄色に
染めて そして
歩いて返す道で
私は誰と一緒に
どうやってここまで
歩いて来たのかと
不思議で 手の中にあった
指を強く握った

今日も海から吹く風が
強くて手袋なしでは
歩けない そうやって
冷たさに耐えて
何重にも重ねて
いつからか
手を握ることを
ためらった

病院の長い廊下で
手を引かれていた
あなたは西日の中に
緩慢に消えてゆき
人形だけが取り残されたことに
誰も気付かなかった

こうしてあなたが
骨になって
あの家の居間に
静かに座っている
今ではもう手を握ることさえ
かなわない

口を僅かに開く
笑みの仕草のまま
近付いて ためらい
声をかけた

あなたはどこかで
私を喪失してしまっていた
同じように私も
あなたを失って

薄れて行く輪郭を
放さないように
手を握りあう
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