舞蝶〜踊り子と一人の紳士〜/なかがわひろか
 
連れて行くおつもり。」
紳士:「もっときれいな音楽がある場所へさ。」
女 :「素敵なお答え。」
紳士:「さあ、行こう。」
女 :「最後にもう一踊りだけしていいかしら。」
紳士:「君の気が済むならね。」
女 :「優しい人ね。」
紳士:「だけど、どうしてだい。なぜ君は踊る。」
女 :「うふふ。」
紳士:「なんだい。」
女 :「アタクシ、難しいことは嫌いですの。」
紳士:「おやおや、やられたね。」




浸かれた感処に
我が身を失う舞

狂って
クルって
ひらり
悲しいほどに

地を叩く長雨
唄い手の手拍子
宵や、宵やと
踊り狂う

ひとひらの蝶
踊り尽きた夜更けに
濡れた男と女は
靄(もや)の中に溶けて行く

浄化せし思いは
何処へか行かん
絶えることのない
舞は続く

(「舞蝶〜踊り子と一人の紳士〜」)
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