詩と詩論(その一)/生田 稔
 
人がいるわけでなく、詩芸術という一つのジャンルがあるということで、この書物が伝える現代詩人は明治以来の新しい新体詩というよりは、和歌や漢詩から分かれ出でた流れうくむ詩人達なのである。
 拙作を一つ紹介して、伊良子氏を終わる。

 寒き空見上げて

寒空に見ゆ
神独り何なしたまふ
暗闇のいやはてに住み
ともしきにあらずに

妻ととも帰る路
街路にあかあかと灯り 
空たかく風そよ吹き渡り
神笑いたまうに

銀鼠、うす白き朝
野へ稼ぎにいず
その夫(つま)年老いて
二人おば神支えたまふ

稼ぎためし価もて
鼠の夫婦(めおと)家を建つ
銀鼠娘のころに
思いおりし小さき家を

鼠の国の湖(うみ)の面(も)に
赤き陽のぼりて
家建ち上がりし日
お礼として花供う


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